大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌地方裁判所 昭和52年(ワ)3037号 判決

原告

岩井キヨエ

ほか二名

被告

砂原町

ほか二名

主文

一  被告若狭寿美、同坂下松三郎は原告岩井キヨヱに対し、連帯して一四九万六〇四八円および内金一三四万六〇四八円に対する昭和五〇年九月二七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告若狭寿美、同坂下松三郎は原告吉野則子に対し、連帯して八一万八四〇〇円および内金七三万八四〇〇円に対する昭和五〇年九月二七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告若狭寿美、同坂下松三郎は原告吉野一桐に対し、連帯して七万六〇〇〇円およびこれに対する昭和五〇年九月二七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告らの被告若狭寿美、同坂下松三郎に対するその余の請求および被告砂原町に対する請求はこれを棄却する。

五  訴訟費用は原告らと被告若狭寿美、同坂下松三郎との間においては、これを四分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告若狭寿美、同坂下松三郎の負担とし、原告らと被告砂原町との間においては全部原告の負担とする。

六  この判決は原告ら勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(請求の趣旨)

一  被告らは連帯して原告岩井に対し、金二五三万三〇七八円および内金二二八万三〇七八円に対する昭和五〇年九月二七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは連帯して原告吉野則子に対し、金一三八万五五〇〇円および内金一二八万五五〇〇円に対する昭和五〇年九月二七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは連帯して原告吉野一桐に対し、金一〇万五〇〇〇円およびこれに対する昭和五〇年九月二七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は被告らの負担とする。

五  仮執行宣言。

(請求の趣旨に対する被告らの答弁)

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

(請求の原因)

一  事故の発生

原告らは次の交通事故(以下本件事故という)によつて傷害を受けた。

1 発生日時 昭和五〇年九月二七日

2 発生場所 茅部郡砂原町字度杭崎七番地

3 加害車 小型乗用車(函55ち8684号)

4 右運転者 被告若狭寿美(以下被告若狭という)

5 被害者 原告ら(当時原告吉野則子運転の乗用車「8函ひ7519号」に同乗中)

6 事故の態様 被告若狭は本件加害車を運転して本件道路上を鹿部方面から森町方向に向け時速約五〇キロメートル以上で進行中、同一方向の左道路前方で人を降すため一時停止していた原告吉野則子運転の小型乗用自動車の後部に追突した。

7 結果

(一) 本件事故により、被害車に同乗していた原告岩井キヨヱ(以下原告岩井という)は、顔面挫創、頸椎捻挫、頭部、胸部、腰部各打撲の傷害により、事故日の昭和五〇年九月二七日から同年一〇月六日までは、砂原町国民健康保険病院、同年一〇月六日の一日間は函館病院、同年一〇月七日から同年一一月一四日までは、市立函館病院、同年一一月一四日から同五一年三月四日までは佐々木病院でそれぞれ入院治療を受けた。その後昭和五一年三月一五日から同病院で通院治療を受け、現在その治療を続行中である。

(二) 同じく原告吉野則子(以下原告則子という)は頭部打撲、頸椎捻挫の傷害により、昭和五〇年九月二七日から同年一二月六日までは砂原町国民健康保険病院、函館病院及び市立函館病院で入院治療を受け、その後昭和五一年二月一六日まで前記砂原町国民健康保険病院で通院治療を受けた。

(三) 同じく原告吉野一桐(以下原告一桐という)は頭部挫創、左手擦過傷の傷害により、昭和五〇年九月二七日から同年一〇月六日まで砂原町国民健康保険病院で入院治療を受けた。

二  責任原因

1 被告若狭は本件加害車を運転中、前方注視義務を怠つた過失によつて本件事故を発生させたのであるから、民法七〇九条により後記損害を賠償する義務がある。

2 被告砂原町は、被告若狭の使用人であり、かつ被告若狭は被告砂原町の業務執行中に本件事故を惹起させたのであるから、被告砂原町は民法七一五条により使用者として本件事故による損害を賠償すべき義務がある。

3 被告坂下松三郎(以下被告坂下という)は本件加害車を所有し、これを被告若狭に一時貸して運転させてはいたが、その運行について支配していたものであり、自賠法三条により運行供用者として後記損害を賠償すべき義務がある。

三  損害

1 原告岩井の損害

(一) 治療関係費

(1) 治療費及び通院交通費 被告砂原町より充当ずみ。

(2) 入院雑費 八万円(一日当五〇〇円、一六〇日間)

(二) 休業損害 七〇万三〇七八円

(年齢) 事故当事満五七歳(大正六年一〇月一日生)

(職業) 家事労働

(平均賃金) 日額三四一三円(四九年度賃金センサスの一割増)

(休業期間) 昭和五〇年九月二七日から同五一年四月二〇日まで二〇六日間

(三) 慰藉料 一五〇万円(入院一六〇日間、通院継続中)

(四) 弁護士費用 二五万円

原告岩井は本件訴訟の提起追行を原告ら訴訟代理人に委任し、右金員の支払を約束した。

2 原告則子の損害

(一) 治療関係費

(1) 治療費及び通院交通費 被告砂原町より充当ずみ。

(2) 入院雑費 三万五五〇〇円(一日当五〇〇円、七一日間)

(二) 慰藉料 一〇〇万円(入院七一日、通院七〇日間)

原告則子は砂原郵便局に勤務していたものであるが、本件事故により四〇日間以上の病欠をなしたため、正規の昇給がなされず、一部昇給が停止された。

(三) 子供の養育料 二五万円

原告則子の子供二人の世話をしていた原告岩井が本件事故による治療のため、子供の世話ができず、やむなく原告則子は訴外今村八重に子の養育を依頼し、昭和五〇年一〇月六日から同年一二月二五日までの八一日間分、一日当り三〇〇〇円として二四万三〇〇〇円及び交通費として七〇〇〇円の合計二五万円を同人に支払つた。

(四) 弁護士費用 一〇万円

原告則子は本件訴訟の提起追行を原告訴訟代理人に委任し、右金員の支払を約束した。

3 原告一桐の損害

(一) 治療関係費

(1) 治療費及び通院交通費 被告砂原町より支払ずみ。

(2) 入院雑費 五〇〇〇円(一日当五〇〇円、一〇日間)

(3) 付添看護料 五万円

医師の指示により入院期間中の一〇日間訴外岩井富子に看護を依頼し、右金員を支払つた。

(二) 慰藉料 五万円

四  結論

1 原告岩井は被告らに対し連帯して二五三万三〇七八円及びこれより弁護士費用を控除した二二八万三〇七八円に対する本件事故日である昭和五〇年九月二七日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2 原告則子は被告らに対し連帯して一三八万五五〇〇円及びこれより弁護士費用を控除した一二八万五五〇〇円に対する本件事故日である昭和五〇年九月二七日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

3 原告一桐は被告らに対し連帯して、一〇万五〇〇〇円及びこれに対する本件事故日である昭和五〇年九月二七日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(請求の原因に対する答弁)

一  被告砂原町

1 請求原因第一項の1ないし5の事実は認める。同項6の事実中、時速約五〇キロメートル以上との点は不知、その余の事実は認める。停止していた場所は本来停止禁止場所である横断歩道上であつた。同項7の(一)中、頭部、胸部、腰部各打撲の傷害および同年一〇月六日以降今日までの治療状況は不知、その余の事実は認める。同項7の(二)中、頸部捻挫の傷害を受けたこと及び昭和五〇年九月二七日から同年一二月六日まで砂原町国民健康保険病院に入院したこと並びに同病院の通院終期が昭和五一年二月一六日であることは認め、その余は不知。同項7の(三)は認める。

2 同第二項の事実中、1は不知、2中被告若狭が被告砂原町の業務執行中であつたとの事実は否認し、被告砂原町が被告若狭の使用者であることは認め、その余は争う。

3 同第三項中、原告らの治療費、通院交通費を被告砂原町が弁済したとの主張は否認する。原告らが本件訴訟を原告代理人に委任したことは認める。その余は不知ないし争う。

(被告砂原町の主張)

一  本件加害車両が被告砂原町の所有に属しないこと及び本件事故当時被告若狭は宿直勤務を終えて帰宅途中(なお朝食をすませて再度通常勤務につくため出勤すべきこととなつていたのであり、昼休み時間と同じく職務専念義務が解除される時間帯となつている)であつたことから、本件事故につき被告砂原町は何ら責任を有しない。

この時間帯は使用者たる被告砂原町はその被用者に対して何ら指揮命令権を有せず、その支配領域外にあつて、被用者の自由な活動領域に属するものであるから、被用者たる被告若狭がいかなる行為をしようとも被告砂原町が責任を負うべき理由はなく、まして第三者の自動車を運転しての事故であれば論外である。

二  原告らは本件事故の時間帯は町の勤務時間であつて、昼休み出退勤時間とは異なると主張するが、職員の勤務時間であつても個々の職員について職務専念義務の解除される時間は存在するのであつて、その時間が他の職員の勤務時間中だからということでその職務専念義務を解かれた職員の行為が職務執行性を帯びるはずがない。まして第三者所有の車を使用して朝食をとりに帰るような行為を使用者たる町が一々関知して規制することは不可能である。

(被告砂原町の主張に対する認否)

被告の主張は争う。

被告若狭が本件事故を惹起した時間である午前八時三〇分頃が被告砂原町の勤務時間であることは争う余地のない事実であり、昼休みとか、通勤、退勤の時間ではない。

よつて被告主張のような職務専念義務が解除された時間帯ではなく、被告砂原町は被告若狭に対して支配監督義務を有する時点である。したがつて被告若狭の事故当時の行為は外観的にみて被告砂原町の事業執行中のものであり、それを左右する特別の事情はないから、被告砂原町は本件事故の結果に対する責任がある。

二 被告若狭、同坂下

1  請求原因第一項の1ないし5の事実は認める。同項6のうち加害車の速度を争い、その余の事実は認める。同項7の(一)は争う、(二)、(三)は不知。

2  同第二項の1、3は認め、2は不知。

3  同第三、四項は争う。

(被告らの抗弁)

1  過失相殺

(一) 原告則子は本件事故当時、自車を本件道路に接する道路の三叉路上に停止していた。このような交差点の内部における停車は道路交通法四四条第一号に違反する危険行為である。しかも原告則子は右場所に停車するに当り、できるだけ道路の左側端に沿いかつ他の交通の妨害とならないようにしなければならないのに、道路の左側端から約五〇センチメートル中央線寄りに自車を停止させ、かつ停止に際しウインカーを点滅させるなどして自車が停車中であることを他に合図することもなかつた。

本件事故はこのような原告の停車方法にも原因があり、原告の右過失が本件事故の発生に寄与しているから、損害額の算定にあたつてはこの点を斟酌すべきである。

(二) 原告一桐は原告則子の実子、原告岩井は原告則子の実母であり、右両名は則子と生活を共にし、同一の生活を営んでいる。本件事故は原告則子がその出勤途上幼稚園に行くために同乗させていた原告一桐および原告岩井を下車させるために停車中生じたものである。

したがつて原告一桐、同岩井の損害を算定するについて、原告則子の前記の過失が斟酌されるべきである。

2  弁済

(一) 原告らの治療費、通院費は自賠責保険金および被告若狭の支出で賄つた。

(二) 被告若狭は昭和五〇年九月二八日、原告則子に対し、見舞金名下に五万円を支払つた。

(被告らの抗弁に対する認否)

1 過失相殺の主張は争う。

2 弁済の主張はいずれも認める。

第三証拠〔略〕

理由

第一本件事故の発生

請求原因第一項の1ないし6の事実(ただし6の事実中加害車の速度を除く)は当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二ないし一三号証および原告吉野則子本人尋問の結果により同項7の事実(ただし7の事実中、原告岩井が本件事故により昭和五〇年九月二七日から同年一〇月六日まで砂原町国民健康保険病院に入院治療を受けたことは、原告らと被告砂原町との間で争いがない)が認められる。

第二被告らの責任原因

一  被告若狭、同坂下の責任原因については、原告らと被告若狭、同坂下との間で争いがないから、被告若狭は民法第七〇九条により、同坂下は自賠法第三条にもとづき、原告らの後記損害を賠償する義務がある。

二  被告砂原町の責任原因について

被告砂原町が被告若狭の使用者であることは当事者間に争いがないところ、被告若狭本人尋問の結果によると、被告若狭は本件事故当日被告砂原町の当直(宿直)勤務についていたが、当直勤務が明ける事故当日の午前八時一〇分過ぎ頃、自宅に朝食をとりに出かけたこと、事故当日朝食をすませて再度通常勤務につくことになつていたのでなるべく早く自宅に帰り砂原町役場に戻つてくるため、被告坂下の所有する自動車(以下本件加害車という)を借りることにしたこと、被告若狭はこれまで月二回程度、当直(宿直)勤務についていたことがあるが、当直明けに朝食をとりに行く際は宿直当番の自動車に乗せてもらつたり、被告坂下の自動車を借りて利用していたこと、被告若狭にかぎらず一般に宿直者が朝食のために家に帰る時間について砂原町では別に決められてはいなかつたが、被告砂原町から宿直者は午前八時半頃より午前九時半頃までの一時間の間に食事をとることで被告砂原町と職員との間で暗黙の了解があつたこと、宿直勤務の者が当直明けに自動車で食事に自宅等に出かけることは、被告砂原町の方でも了知していたこと、本件事故はたまたま被告若狭が当直明けに朝食をとりに被告坂下の自動車を運転して、砂原町役場から自宅へ帰る途中で発生したものであること、

以上の諸事実が認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

そこで被告若狭の行為によつて発生した本件事故につき、被告砂原町の使用者責任の成否を検討する。

民法七一五条の使用者責任が成立するには、被用者が使用者の事業執行につき加害行為をなしたことを要し、「事業の執行につき」なされたか否かは、当該行為が客観的に行為の外形から事業の執行の範囲内とみられるか否かによつて定まる。当該加害行為の発生が使用者の事業および被用者の職務の性質上一般的に予想され得るものであり、使用者の支配権の及び得る範囲内にあり、それが当該事業あるいは被用者の職務執行と関連してなされた場合は、右の加害行為は客観的に使用者の事業の執行の範囲内にあるといえるが、使用者の事業や被用者の職務との関連がなくこれらの性質上、当該加害行為の発生が一般に予想されない場合は、客観的にも事業執行の範囲内ということができない。

これを本件の場合につき考えるに前記認定事実によると(イ)日常の勤務において被用者である被告若狭の職務と、自動車の運転とは何らの関連性が乏しいこと、(ロ)被告若狭が本件自動車の運転をなすに至つた動機、事情は、被告砂原町の事業の執行とは直接の関連性がないこと、(ハ)本件加害車は、被告坂下の所有であつて、被告砂原町の所有ではないこと、(ニ)被告砂原町の事業ないし業務は自動車運行との関連性が乏しいことが認められるが、その他に加害車を被告砂原町の業務用に使用したことがあるとか、被用者が朝食をとるため自宅と職場を自動車で往復する行為が被告砂原町の業務のために有益であり、被告砂原町が加害車の利用に特別の便宜を与えていたとかの事実は認められない。

前掲証拠によると、被告砂原町は被告若狭を含む砂原町役場の職員が、当直明けに朝食をとるため自宅に自動車で往復すること(帰宅後、再度通常勤務につくために通勤に自動車を利用することを含む)を事実上黙認していたことが認められる。しかしながらこれは被用者が食事をとりに自宅に自動車を利用する行為によつて使用者たる被告砂原町が特別の利益を得あるいは右目的のためにする自動車の利用に対し特段の便宜を供与したものとは解せられず、被用者が専ら自己の便宜のために自動車を利用しているにすぎない場合であるから、被用者が当直明けに食事をとりに自宅に帰るため当該自動車を利用する行為をもつて使用者の事業の執行とみることはできないし、又、その運行に対し使用者が運行支配や運行利益を有するものということもできない。

もつとも本件事故は被告砂原町の勤務時間中に発生したものであるが、被告若狭にとつては右時間は前認定のとおり事実上宿直職員が朝食をとるための時間として、職務専念義務を免除されている時間帯であるから、右時間が被告砂原町の勤務時間中であるからとの理由で直ちに職務専念義務を解かれた被告若狭の行為が職務執行性を帯びることにはならない。

したがつて、被告砂原町は本件事故につき民法第七一五条第一項の使用者責任を負わないものといわざるをえない。

よつて原告らの被告砂原町に対する請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

第三過失相殺の抗弁に対する判断

成立に争いのない乙第五号証の2、原告吉野則子本人尋問の結果(ただし後記措信しない部分を除く)、被告若狭寿美本人尋問の結果によると、次の事実が認められ右認定に反する原告吉野則子本人尋問の結果の一部は措信しがたく他に右認定に反する証拠はない。

(一)  被告若狭は加害車を運転して時速約四五キロメートルで鹿部方向から森町方向に進行中、原告則子運転の乗用車(以下被害車という)を約四四メートル前方で発見し、約一五メートル前方で被害車が停止しているのに気づき停止している被害車の右側方を通過するため右にハンドルを切つたところ、前方約三五メートルの地点に普通貨物自動車が対向してきたので、ハンドルを左にもどし、対向車の通過を待ちながら進行したが、被害車に接近しすぎてブレーキを踏むいとまもなく被害車の後部に衝突したこと、一方原告則子は長女を幼稚園に送つて行くため、被害車を運転して時速約四〇キロメートルで鹿部方面から森町方向に向け進行中、本件事故現場付近の丁字型交差点の内部に被害車の後部をはみ出した状態で、しかも道路の左側端から約五〇センチメートル中央線寄りに停止して、長女を被害車から降ろしていたとき加害車に追突されたこと。

(二)  右認定の事故の態様、被害車が停止した場所、停止の方法に鑑みると、本件事故の発生に関し、原告にも二割の過失があるものというべきである。

(三)  原告吉野則子本人尋問の結果によると、原告一桐は原告則子の実子であり、原告岩井は原告則子の実母であり、右両名は原告則子と生活を共にしていること、本件事故は原告則子が長女を幼稚園に送つて行く際、原告一桐、同岩井を同乗させていたときに本件事故が発生したものであること、以上の事実が認められ他に右認定を左右する証拠はない。

右事実によれば、このような場合原告一桐、同岩井の損害を算定するにつき原告則子の前記の過失を原告側の過失として斟酌するのが相当であると解する。

第四損害

1  原告岩井の損害

(一)  治療関係費

(1) 治療費および通院交通費

自賠責保険金および被告若狭の支出により賄われたことは原告らと被告若狭、同坂下との間において争いがない。

(2) 入院諸雑費 八万円

原告岩井が本件事故のため一六〇日間入院したことは、成立に争いのない甲第二ないし五、同第二八、二九号証により認められ他に右認定を左右する証拠はないところ、入院中諸雑費として一日平均五〇〇円を要することは当裁判所に顕著である。よつて右入院期間中に要した諸雑費は八万円と算定される。

(二)  休業損害 六〇万二五六〇円

成立に争いのない甲第二一号証および原告吉野則子本人尋問の結果によれば、原告岩井は事故当時満五七歳で、原告則子の実子の育児にあたつていたこと、本件事故により事故当日の昭和五〇年九月二七日から同五一年三月四日までの一六〇日間入院したため、育児にあたることができなかつたことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

昭和五〇年度の賃金センサス(女子労働者)による年収一三七万四六〇〇円(日額三七六六円)を平均賃金として休業損害を算定すると、休業損害は六〇万二五六〇円と算定される。

(三)  慰藉料 一〇〇万円

本件事故の態様、原告の傷害の程度、入、通院治療の経過その他本件にあらわれた一切の事情を勘案すれば、本件事故による原告岩井の精神的、肉体的苦痛は一〇〇万円をもつて慰藉されるのが相当である。

(四)  過失相殺

以上(一)ないし(三)の損害金合計一六八万二五六〇円につき、前記認定の過失割合を斟酌すると、被告らの負担すべき損害額は一三四万六〇四八円となる。

(五)  弁護士費用 一五万円

本件事件の性質、認容すべき額その他本件にあらわれた諸事情を考慮すると、原告の負担すべき弁護士費用中、一五万円を被告らに負担させるのが相当である。

2  原告則子の損害

(一)  治療関係費

(1) 治療費および通院交通費

自賠責保険金および被告若狭の支出により賄われたことは原告らと被告若狭、同坂下との間において争いがない。

(2) 入院諸雑費 三万五五〇〇円

原告則子が本件事故のため七一日間入院したことは、成立に争いのない甲第六ないし八、同第一〇号証により認められるところ、入院中諸雑費として一日平均五〇〇円を要することは当裁判所に顕著である。よつて右入院期間中に要した諸雑費は三万五五〇〇円と算定される。

(二)  慰藉料 七〇万円

本件事故の態様、原告の傷害の程度、入、通院治療の経過その他本件にあらわれた一切の事情を勘案すれば本件事故による原告則子の精神的、肉体的苦痛は七〇万円をもつて慰藉されるのが相当である。

(三)  子供の養育料 二五万円

成立に争いのない甲第一五ないし二二号証および原告吉野則子本人尋問の結果によると、原告則子の二人の子供の世話をしていた原告岩井が本件事故による治療のため、子供の世話ができず、やむなく原告則子は訴外今村八重に子供の養育を依頼し、昭和五〇年一〇月六日から同年一二月二五日までの八一日間分、一日当り三〇〇〇円(計二四万三、〇〇〇円)および交通費として七〇〇〇円の合計二五万円を同人に支払つたことが認められる。

(四)  過失相殺

以上(一)ないし(三)の損害金合計九八万五五〇〇円につき、前記認定の過失割合を斟酌すると被告らの負担すべき損害額は七八万八四〇〇円となる。

(五)  損害のてん補

原告則子が被告若狭から五万円を受領したことは当事者間に争いがないから、原告則子の損害はその限度でてん補されたこととなる。

(六)  弁護士費用 八万円

本件事件の性質、認容すべき額その他本件にあらわれた諸事情を考慮すると、原告の負担すべき弁護士費用中、八万円を被告らに負担させるのが相当である。

3  原告一桐の損害

(一)  治療関係費

(1) 治療費および通院交通費

自賠責保険金および被告若狭の支出によつて賄われたことは、原告らと被告若狭、同坂下との間において争いがない。

(2) 入院諸雑費 五〇〇〇円

原告一桐が本件事故により一〇日間入院したことは成立に争いのない甲第一一、一三号証により認められるところ、入院中諸雑費として一日平均五〇〇円を要することは当裁判所に顕著である。よつて右入院期間中に要した諸雑費は五〇〇〇円と算定される。

(二)  付添看護料 五万円

成立に争いのない甲第一三、一四号証によると、原告一桐が入院中の一〇日間付添看護を必要とし、訴外岩井富子に看護を依頼し、右金員を支払つたことが認められる。

(三)  慰藉料 四万円

本件事故の態様、原告の傷害の程度、入院治療の経過その他本件にあらわれた一切の事情を勘案すれば、本件事故による原告一桐の精神的、肉体的苦痛は四万円をもつて慰藉されるのが相当である。

(四)  過失相殺

以上(一)ないし(三)の損害金合計九万五〇〇〇円につき前記認定の過失割合を斟酌すると被告らの負担すべき損害額は七万六〇〇〇円となる。

第五結語

以上の次第であるから原告らの被告砂原町に対する本訴請求は理由がないので棄却することとし、被告若狭、同坂下に対する本訴請求は、原告岩井キヨヱに対し連帯して一四九万六〇四八円および内金一三四万六〇四八円に対する、原告吉野則子に対し連帯して八一万八四〇〇円および内金七三万八四〇〇円に対する、原告吉野一桐に対し連帯して七万六〇〇〇円およびこれに対する、事故の日である昭和五〇年九月二七日から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 日野忠和)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例